契約結婚の終わらせかた

5月~春の嵐





「あ、あの……味はいかがですか?」

「………」


伊織さんはタブレット端末でニュースをチェックしながら、ただ黙々とプリンだけを口にしてる。一緒にテーブルに着いてる私のことは、最初から霞か何かのように無視してた。




書類だけの結婚をして10日目。珍しく伊織さんが夕飯時に帰ってきた。


1週間の海外出張。帰国の日付は秘書の葛西さんから聞いていたから、朝のうちにプリンを作っておいた。


(この前のリベンジ。美味しいって言ってもらえたらいいな)

ついでにあの時のことを謝ろう、そう思って夕飯を一緒にと誘おうとしたけど。伊織さんを送ってきた葛西さんが先に口にした。


「おい、伊織。おまえ新婚のクセに新妻放ったらかし過ぎだろ。夕飯くらい一緒に食えよ」

「経済的に不足はない」

「そうじゃないだろ! 仮にも夫婦になったなら、コミュニケーションくらい取れ!」


ビッ、と伊織さんを指差した葛西さんは、「いいか、一緒に飯を食うまで会社に来るな。秘書命令だ!」と宣言をしてマンションを出ていった。


秘書命令って……普通逆じゃないかと思うけど、葛西さんの言葉に助かった。


深くため息を着いた伊織さんは、面倒くささを隠そうともせずに食卓につく。そして、私へプリンを要求してきて……そのまま冒頭の場面へ戻るわけだけど。


正直、一緒に食べてる意味がないって思う。

< 42 / 280 >

この作品をシェア

pagetop