契約結婚の終わらせかた
私が食べてるお料理はハウスキーパーの鈴木さんが用意してくれたもの。中華料理屋さんのコース料理ような見事な出来栄えだけど、一人前しかなかった。
食欲をそそる香りと見た目なのに、伊織さんは一瞥もせずプリンだけを平らげていく。
全く会話がない、冷たい食卓。耳に届くのは食器とカトラリーがぶつかる音だけ。なんだか、味気ない。
貧乏で質素なメニューばかりだったけど、おばあちゃんと食べてたご飯が懐かしい。
伊織さんはプリンを5つ平らげた後、棚にあった木箱を取り出す。まさか薬箱?
「あの……どこか悪いんですか?」
心配して訊ねてみても、伊織さんは答えもせずに木箱を開く。そして、取り出したのはビタミン剤や鉄剤なんかのサプリメント類。それぞれの袋から数粒ずつタブレットを出すと、ミネラルウォーターと一緒に飲み込む。
十なん種類かのサプリメントを飲み込んだ後、彼は黙って棚に木箱を戻してダイニングを後にした。
今、目の前で見たことが信じられなかった。
伊織さんは……固形物はプリンだけを食べて、後はサプリメントで補ってるの?
「そんな……嘘だよね?」
でも、思い返すと気づく。疑わしい点は幾つもあった。
プリンの他はゼリー飲料しか口にしてるのを見たことがない。おはる屋でご飯を出しても一口すら食べなかった。
そして、結婚して初めてマンションの冷蔵庫を見た時。中にはスポーツドリンクとゼリー飲料しか見当たらなかったんだ。