契約結婚の終わらせかた
しばらく笑いあってたけど、子ども達が次々とレジに来て話が途切れた。
忙しさが一段落してみると、もうすぐ5時。おばあちゃんが出てくる時間だ。
さて、と帰り仕度をしていると、なぜか空くんがレジ前でそわそわしてる。なんだろう?
と不思議に思ってると、彼は雑誌を握りしめて勢いよく顔を上げた。
「な、なあ碧姉ちゃんさ……あ、明日……ヒマ?」
「明日? うん、別に用事はないけど」
明日の日曜日はいつも通りにおはる屋での店番があるくらいだ。結婚したとはいえ、主婦の仕事はほとんどやらせてもらえない。だから、暇なら散歩がてら川沿いを歩こうと考えてたけど。
「あ、あのさ。今、藤棚が……すげえってダチから聞いたんだ。碧姉ちゃんのスケッチにどうかなって……あ、よかったらだけど! い、一緒に」
最後はゴニョゴニョでよく聞こえなかったけど、どうやら私を誘ってくれてるってことだけは解った。
藤の花か……もうそんな季節なんだな、ってしみじみした。
空くんはきっと、落ち込む私を励ますために誘ってくれたんだ。やっぱり優しいな……って、ちょっとだけ涙が出そうになって目元を擦った。
「ありがとう、空くん。藤、久しぶりに見るから楽しみだな」
にっこり笑うと、空くんはしばらくポカンとした後、なぜか握りこぶしを振り上げて「よっしゃ!」と叫んでた。そんなに嬉しそうなら、と私は子どもたちにも声をかける。
「明日はみんなも行くよね?」
「え、藤? 行く行く!」
「あたし、りんごあめ食べたいな~」
次々と子ども達が名乗りを上げた後。どうしてか、空くんがしくしく涙を流しながら固まってた。