契約結婚の終わらせかた
構図がいい場所を見つけてベンチに座ると、ドカッと隣に空くんが腰を下ろす。開いたスケッチブックに鉛筆を走らせながら、私は空くんに一応言っておいた。
「空くん、心配してくれてありがとう。でも、私は大丈夫だよ」
「大丈夫……か」
ボソッと空くんが反芻するから、そうだよって答えた。
「私は、いつだって大丈夫。空くんが心配してるような問題なんて、なんにもないんだから」
シャッ、シャッと鉛筆を滑らせる。輪郭を写し取っていく。今だけの生を――この瞬間を、切り取る。
一通り描き終えて細かな陰影を描き込んでいると、空くんはぽつんと小さく吐いた。
「――嘘だね」
途中で、鉛筆が止まる。
「碧姉ちゃん、知らないだろ? 碧姉ちゃんが嘘を誤魔化す時、笑った時の顔が左右でアンバランスなの」
「……」
知らなかった事実を指摘されて、動揺したのは事実。するともしかすると、今まで嘘を着いた時は全て見破られていた?
怖くなって、鉛筆を持つ手が震えた。
「そんなに驚かなくてもいいだろ。俺が何年碧姉ちゃん見てきたと思ってんだよ」
空くんが苦笑いしていることは手にとるように解る。だけど、私は彼の顔を見る勇気が出なかった。