契約結婚の終わらせかた



伊織さんと藤祭りを楽しんだあの日。終わり際にひどい雷雨に遭ったんだ。


伊織さんはさっさと走っていったから、てっきり私は置き去りにされたと思い、捨て猫らしき子猫を拾って一緒にいたんだけど。


激しい雷の中、伊織さんが駆けつけてくれて……。


そこまで思い出して、ボッと頬が熱くなる。


(や、やだ……朝から何を思い出してるのよ、私は!)


頭をブンブン振って一生懸命忘れようとした。けど……いくら振り切ろうとしても、彼の体温や逞しさが忘れられない。


その度に、心臓がドキドキして胸がキュウッと鳴る。


(なんだろう……私、ちょっとおかしい?)


思わず胸に手を当てて押さえていると、鈴木さんが玄関ドアを開いてすっとんきょうな叫び声を上げた。


「お、奥さま! 顔が真っ赤ですよ!? 熱があるんではないですか? 苦しいなら後は私に任せて横になっていてください!」


なにやら誤解された鈴木さんに部屋へ押し込められ、やれ氷枕だやれ風邪薬だと騒がれた。


「あの……だいじょ……ぶぐっ」


ドスッ


わずか半月で体重が倍に成長したミクが、容赦なく私のお腹に座り込んで。危うく朝ごはんのすべてを出しそうになりましたよ。


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