契約結婚の終わらせかた



「いい加減にしろ! 警察に突き出されたいのか」


警備員さんに大声で一喝され、体が竦む。その間に伊織さんの一団はガラス張りのドアを通り抜け、車止めに停まっていた黒塗りの車に乗り込んだ。


もうダメだ、と諦めそうになった瞬間――


なぜか脳裏に浮かんだのが、嫌そうに野菜プリンを食べる伊織さんの姿だった。


彼に、普通のプリン以外を食べさせることに成功したのは、ねばり強く努力したから。諦めなかったから、だ。


(そうだ……諦めちゃダメだ。私は葛西さんに仕事を託されたんだ。彼の信頼を裏切らないために、頑張らなきゃ)


でも、たぶん。言葉でいくら説得しようとしても、聞く耳すら持ってもらえそうになかった。そうなれば、多少強引な手段を使うしかない。


もたもたしてると、伊織さんが車に乗り終えてしまう。


そう決意をした私は、素早く行動に移した。


私の腕を掴んで引きずる警備員では力で敵わないなら、隙を作らせる。前しか見てない彼の足元に狙いを定めると、思いっきり足を振り下ろした。


「ぎゃっ!」


予想通りに痛みから警備員の拘束が緩む。その隙に素早く抜け出すと、伊織さんに向かって走り出す。


「こ、この……待て!」


伸びてきた手を素早くかわし、床を思いっきり蹴って伊織さんに向けて呼びながら走った。


「伊織さん!書類です」


けど、もともと運動関係はまるで駄目な私が日頃鍛えてる警備員から逃げ切れるはずもなくて。


程なく腕を掴まれ、2人がかりで拘束された。


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