契約結婚の終わらせかた
「し、失礼しました!」
警備員さんは伊織さんから話を聞いた途端、それまでの横柄さをかなぐり捨て、敬礼までしてきた。
「社長夫人様とは知らず、とんだ失礼なことを。申し訳ありません!」
伊織さんより背が高い警備員さんに90度のお辞儀で謝罪され、こちらまで恥ずかしくなってくる。
「あ、あの……そんなに謝っていただかなくても。お仕事上あの対応は当然だと思います。私は気にしませんから」
「さすが、碧ちゃんだよね。あ、ホラ。無愛想が服来たヤツがこっちに来るよ」
「えっ!?」
葛西さんの言葉に、ドキッと胸が鳴る。恐る恐るそちらを見れば、不機嫌さ丸出しな伊織さんがこちらへ歩いてきてた。
「……なんでおまえがここにいるんだ?」
「おいおい、伊織くん。自分の妻に向かってその態度はないんじゃないの? 碧ちゃんはわざわざぼくに頼まれた書類を持ってきてくれたんだから。
感謝こそすれ邪魔者扱いはないんじゃないの」
葛西さんのいつもの軽い物言いに、伊織さんはため息を着いて眉間を指で押した。
「おまえな……何を企んでる?」
「やだな~ぼくが腹黒いような言い方やめてくれる~ぼくはただ単に、みんなに碧ちゃんを見てもらいたかっただけさ。はっはっは」
どこまでも軽い葛西さんの言葉は、伊織さんのため息で飛んでいってしまいそうだった。