契約結婚の終わらせかた
「とりあえず、ダイエットしてみたら?」
心愛ちゃんは定期購読してる雑誌を和室で広げながら、買ったアイスをパクリと口にする。
「ダイエット……か」
「うん。ぶっちゃけ、碧お姉ちゃんってさ。二の腕とかぷよぷよしてるよね」
「…………」
容赦ない小学生女子の指摘に、ピシッと固まる。腕を持ち上げて振ってみれば、確かに揺れる二の腕のお肉……。
「もう薄着の季節なのに、それヤバいよ。カレシできないよ……あ、でも」
心愛ちゃんはアイスをくわえたまま、ちらっとこちらを見てきてニヤリと笑う。
「そういえば、碧お姉ちゃんのカレシ候補がひとりいたっけ? お姉ちゃんが鈍いから、見てて気の毒なくらいだけど」
心愛ちゃんがニマニマ笑いながらそんなことを言ってる間、私はぶつぶつと呟きながら二の腕に触れてた。
「ヤバいよね、やっぱ……スレンダーまでは無理でも普通くらいにならないと」
伊織さんが何も言わないからスルーしてきたけど、小学生から見てもヤバいなら目が肥えた大人が見たらとんでもないってことだよね。
脳裏に思い浮かんだのは、スラリとスーツを着こなした大人美人――伊織さんの隣に堂々と立ってた彼女だった。
(……あれだけは無理でも……努力しなきゃ)
キュッと二の腕を強く掴んでる私の耳に、心愛ちゃんのため息は聞こえなかった。
「……全然聞こえてないって、お兄。アウトオブ眼中ってカンジ。可哀想だけど仕方ないね~」