いきなりプロポーズ!?
「だからお前もあきらめるなよ。元カレにもう一度、会ってみたら?」
「え?」
何かの聞き違いと思いたかった。達哉の顔を見るけど、達哉は上を向いたままだ。
「ま、松田さんに?」
「ああ。もしかしたらお前がついてきてくれるのを待ってるかもしれないぜ」
「どうしてそんなこと言うの」
「お前が言ったんだろ、可能性がゼロでないならチャレンジしろって」
そこでようやく達哉は私のほうに顔を向けた。マスクをしているから口元は見えない。でもいつもの威圧感のある瞳ではなかった。優しい、何かを見守るような温かい眼差し……舞さんを思い出している?
そうか。達哉は渡英できなかった舞さんをイギリスでずっと待っていた。海を越えて来てくれる日を待っていた。達哉は待っているとも言えず、じっと耐えていたんじゃないか……。
達哉は私を思って言ってくれたんだと思う。でも私は突き放された気分だった。この旅行が終わったら達哉はもう私とはかかわりたくないんだって取れたから。
私は堪え切れなくてうつむいた。
「……うん」
「あっ、ほら、あいつらが俺たちを見てる」
そう言われて達哉の視線の先を見た。あの身長のデコボコ感はあの3人だ。ヒソヒソと話をしながらチラチラとこちらを見ている。
手はつないだまま、もう片方の手で達哉は自分のマスクを下げると、今度はグローブの指先で私のマスクを下げた。冷気が直接当たって冷える。達哉の両手が私の両肩におかれた。
「見せつけておかないと。ダメか?」
「う、ううん」
「じゃ、いただきます」
顔を傾けながら近づいてきた達哉。私は目を閉じた。重なる唇。冷たい唇。ただ重ねるだけの軽いキス。でも私の体は芯から反応して熱くなっていく。もっと欲しいもっと長く触れていたい。でも達哉の唇はすぐに離れた。そして至近距離でほほ笑む。