いきなりプロポーズ!?
「ち、ち、違うもん! た、た、達哉の額にご、ごご、ゴキブリがはってたから払ったの!」
「は? アラスカにはゴキブリがいないんじゃなかったのかよ」
「い、いまはほほほほ、北海道にもいるって達哉が言ったんじゃない」
達哉はクスクス笑ったまま私を見下ろす。距離にして15センチ弱、小学校の時に使った三角定規くらいの長さ。あの30度と60度と90度の細長いほうの三角定規の一番長い辺ぐらい。
「なに、意識してんの」
「しししし、してないもん!」
本当は意識している。こんな距離感、キスに比べたらなんでもない。唇が触れているわけでもない。オーロラ観賞ツアーのバスに乗り込む前にはあんな熱いキスもした。さっきだって軽いキスだけど、した。キスは3回もした。今は10センチの距離があるとはいえ、状況が違う。私と達哉の他には誰もいない密室、ふたりきり。しかもベッドの上。男はトランクス一枚、戦闘態勢ではないか!! 一枚脱げば真っ裸、いや、脱がなくても……そこの説明はあえて割愛しよう。
すると達哉は笑うのやめて真顔になった。だめ……心臓が爆発する。ブレイクアップだ。胸骨を越えて皮膚を破って飛び出してしまいそう。
「する?」
「へ……」
達哉は私の前髪をすく。切なそうに少し眉間にしわを寄せて私を見つめる。何度も何度もすく。
指はとまった。
「……し、してもいい」
「そ」
達哉の指が私の額からこめかみに下りた。ゆっくりとなぞり、私の耳に向かう。
「ひ……や……」
「感じてるの? そんな声出して」
「か、感じてなんか……」