いきなりプロポーズ!?
エレベーターでロビー階に着くと達哉は部屋のカギをフロントに返しにいく。神山さんがバインダーを片手にツアー客の点呼をしていた。チェックを受けた人から空港へ向かうバスに乗り込んでいるようだった。
「真田さん!」
私を見つけて手を振る。ああ、忘れていた。この人とデートの約束をしたのを思い出した。
「真田さん、こちらの不手際で大変ご迷惑をおかけしました。昨日お話させていただいたバー・カシュカシュの件でございますが」
「いえ、あれももう、いいです」
「いえ、でも。なかなか入れない名店だと自負しているバーですよ。もったいないですって」
お通しにマカロン、シャンパン、フレンチ、有名パティシエのデザート、桜の一枚板のカウンター……。ああ、もったいないことをした。でも気持ちのない神山さんと行くのも失礼だし、ここはすっぱりとあきらめよう。
「来月の最終土曜日、バーの予約もホテルの予約も押さえましたので」
「いえ、本当に結構です」
そんな話をしていると達哉がこちらへやって来る。ギロリと神山さんをにらんで私のキャリーケースの取っ手をつかんだ。
「ほら、愛弓、行くぞ」
「うん」
私の重い荷物をもろともせず、片手で軽々と持ち上げて運ぶ。そして達哉はずかずかとバスに向かった。