いきなりプロポーズ!?

 奴は私の前に立つと、突然、座っていた私の右肩に手を置いた。そしてそのままズンと後ろに押し、私をベッドに倒した。背中でばふんばふんとスプリングが跳ねる。奴は屈んで私に覆いかぶさる。両手を私の顔の脇につき見下ろしている。つまり私の顔の真上には新條達哉の顔。イケメンに心が揺れ……違う! 口ではあんなこと言っておきながら、やっぱり襲うのが目的だったんじゃないか。

 3日3晩、このゴリラ男の餌食にされてしまう……ひーっ!


「そんなに警戒しなくてもさ」
「け、け、警戒もなにも」
「そ。じゃあ」
「ちょちょちょーっ!」
「警戒してないってことはOKなんでしょ」
「そーゆーことじゃないでしょ! え、ぎゃぎゃ☆★※@%$●○!!」


 迫り来る赤帽、私は両手で奴の肩を押し上げる。でも男の力に適うはずもなく、奴は右手で私の髪をすいた。


「やだっ!」
「抵抗してもムダ」
「や、やめてっ」
「抵抗されるのも萌え……いってえ!」


 私は両手の指の爪を立て、奴の頬を思いっきりひっかいた。しかも右も左も3回ずつ。ようやく赤帽男は起き上がって私から離れた。


「……ちょっとからかっただけなのに、マジで抵抗しやがって」
「あったりまえでしょ!」
「自意識過剰じゃね? ほら、タグ。髪の毛にくっついてた」


 奴の右手の人差指には値札。それを私の鼻の上にくっつけると奴はベッドを降りた。そうだ、日本を発つ前に購入したウールの帽子、使うからそのままお店の人から受け取ったんだった。値札は挟みで紐を切ってくれたけど、内側に張られていたシールは取り忘れたんだ。

 赤帽男はミミズ腫れになった頬を手でこすりながら自分の陣地に戻った。


「貧乳なんか興味ねえっていってんだろ」
「だ、だったら誤解されるような行動は控えてよ!」
「可愛くねー。凶暴女!」



 あー最悪だ。
 とんだ失恋旅行だ。
 もう帰りたい帰りたい帰りたい!!

 でもここからひとりで帰る資金も英語力もない。私はじろりと奴をにらむしかなかった。





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