いきなりプロポーズ!?
§2 最低男と恋人ごっご!
簡単に荷物を片づけて、私は赤帽男と部屋を出た。ひとつしかないカギを奴が手にして階下のレストランへ向かう。入口には何故か仁王立ちしたシロクマの剥製が飾られていた。そういえば空港にはタカやオオカミの剥製なんかもあったっけ。日本にはない光景にアラスカに来たんだなと実感した。なんて、しみじみ感慨深くふけってる場合じゃない。
「Is there a table available?」
「For how many people?」
「We are 2」
奴は滑らかにネイティブスピーカーのような英語をしゃべってボーイと会話する。案内されて私が席に着くと、奴もテーブルを挟んで向かいに座った。
「な、なんで同じテーブルに着くの?」
「別にいいだろ」
「食事まで同じじゃなくてもいいじゃない」
「じゃあ、別の席にしてもらえば?」
「そうさせてもらいます!」
私は立ち上がり、手を挙げてボーイを呼んだ。青い瞳の彼はにこやかに私に近づき、何か御用ですか?的に首をかしげる。
「ええっと、あい、あいうぉんと……」
この男とは全くの赤の他人ですんごい野蛮でゴリラだから一緒にごはん食べたくないし、同じグループだと思われたくないから席を別にしてもらいたい!、って英語でなんて言えばいいだ? ボーイは何もしゃべらない私を不思議に思うのか、表情を次第に曇らせていく。焦れば焦るほど単語は浮かばない。言葉が出ないかわりに脇汗が出る。こんなことなら英語を勉強しておけばよかった。自業自得、身から出た錆、後悔先に立たず。すると横からクスクスと笑い声が聞こえた。
「愛弓もランチでいいか? ポークリブ」
「……あ、うん」
「May I order now? BBQ Pork Rib Half Rack……」
奴はそういうと流暢な英語でポークリブをふたつ的なことを言った。それ聞くとボーイはにっこり笑って下がり、私はほっとして胸を撫で下ろした。赤帽男は笑いながら顎をしゃくり、私に座れと目で訴える。しかたなく、座る。