いきなりプロポーズ!?
 向こうも同じことを思ったのか私たちを見てにっこりと笑って会釈した。こっちもなんとなく会釈をする。年配のふたりはお揃いのセーターを着ていた。色違いのアーガイル柄だ。男性が茶系の地に緑と青のダイヤ模様、女性はベージュの地にピンクと赤の模様。中肉中背の日本ではよく見かけるカップル。シルバーグレイのご主人とブラウンで染めたふんわりボブの奥さん。水とビールが届いて私はグラスに口をつけた。ふと振り返ると、ご夫婦はこっちに向かってくるではないか。


「相席いいかしら。それともお二人のお邪魔かしら」とご婦人。


「いーえ、どうぞどうぞ。邪魔じゃなんかありませんから」


 と、私。たとえた見ず知らずのご夫婦でもこんな奴と仲良しだなんて思われたくもない。


「初めての海外旅行でどうも落ち着かなくてね」というご主人はごついデジタルカメラを首から提げている。


 赤帽男は席を立ち、テーブルを回ると私の隣に座った。


「ちょ……隣に座らないで!」
「いいだろ、別に」


 ご夫妻はそんな私たちのやり取りを見て、クスクスと笑う。二人は私たちの向いに座るとご主人は鈴木と自己紹介をした。先月定年退職を迎えた自分への労いに海外ツアーに参加したとカメラを眺めながら話す。どうせならオーロラを撮影してみようと高価なカメラを奮発して購入したらしい。シルバーグレイの品のある素敵なおじさま……雰囲気としては芸能人で言うならアタックチャンスの前司会者だ。奥様は磯野家の向いに住んでいるいささか先生の奥様みたいにつつましやかで上品な女性。日本国中にどこにでもいそうな年配カップルだったけど、だれもがいつかはこんな夫婦になりたいと思うような理想像そのものだ。


「あなたがたは新婚旅行?」


 鈴木夫人は奴と私の顔を交互に見ながら質問した。ぶはっ。私は水を吹き出してしまった。ハンカチで口と服を拭いている間に、私が否定の言葉を言うが早いか、奴は大きな声で返事をする。

 しかも。

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