いきなりプロポーズ!?
前を見ると鈴木夫人が私を優しく見つめていた。
「愛弓さんはどちらにおつとめなの?」
「はい。菜の花文具という会社に勤めてて、事務用品の受注を担当してます。粗品とか景品とか、そういう大口の担当です。最近はネットから名入れのご相談なんかも受け付けてます」
「そう。今はそんなことができるのね。私はパソコンなんてさっぱりわからなくて」
「ご注文はファックスでも受け付けてますので記念にいかがですか。ご主人の撮った写真と一緒に……痛い!」
今度は頭のてっぺんが痛くなった。隣の赤帽男に叩かれていた。達哉。
「こんなところまで来て営業してんじゃねえよ、バカ」
「何すんのよ。バカって何よ。見ず知らず……むぐぐ」
息苦しい。頭の上から大きな手が下りてきて私の口をふさいだ。しかも手のひらが大きいから鼻の穴までふさがれた。
「申し訳ありません。コイツ、仕事熱心で。上司に見ず知らずの人にも宣伝できなくて社会人が務まるかって怒られてて。すぐに売りつけるんです」
「仲がいいほど喧嘩するって本当ね。あなたたち、飛行機を降りてからずっと別行動してたでしょ。喧嘩してたのね。最初、新婚さんだって分からなかったもの」
だからこんな奴と結婚していないのに。
「新婚じゃなくて婚前カップルです!」
「バカ! そのほうがもっとヤラシイだろが!」
「そんなこと考えるほうがエロいわよ。婚前交渉とはき違えないでよ!」
「婚前交渉? バカか、こんなところで」
あ……何か変なことを言ってしまった気がする。鈴木さんご夫妻は目をまあるくして私たちを見ていた。恥ずかしい。