いきなりプロポーズ!?
私は服を脱いで髪をバレッタでとめて、シャワーを浴びた。もしかしたらそんなに変な奴じゃないかもしれない。恋人のふりをするのは他のツアー客に好奇の目で見られないためのカムフラージュっていうのは本心だ、って。
早めにシャワーを切り上げて持参したルームワンピースを着る。淡いピンクの綿素材。長袖で胸元にリボンの飾りがある。お気に入りのひとつだ。私はその格好でドアに向かい、奴に声をかけた。奴は、おう早かったな、と言って浴室に入っていった。私は部屋に戻ってミネラルウォーターを口にした。ペットボトルを手にベッドに腰掛ける。途端に睡魔は私を襲い、そのまま仰向けに倒れ込んで目を閉じた。
今日一日、長かった。日付変更線を跨いで時間を巻き戻しているのだから実質的な時が伸びたのは当たり前だけど、それにしても長かった。ガラガラの電車、空港行きの特急に乗り込んでからは混雑してバカンスの雰囲気に飲み込まれた。年末の空港、卒業旅行以来の海外、しかもひとり旅だ。そしたらあいつがいた。人をおちょくり、からかい、馬鹿にするアホ男なのに松田さん似の長身イケメンで、なんで中身は松田さんじゃないのか。
しかも新婚旅行と間違えられて同室で、平気で押し倒して平気でシロクマの横で壁ドンしてシャワー一緒に浴びようなんて言いやがって。
「……て?」
もぞもぞとする背中。耳に当たる生暖かい柔らかな風。久々の感覚だ。松田さんに抱きしめられた以来のあったかい感じ。懐かしい。こう、人に触れられるって心地いい……。