いきなりプロポーズ!?
 食事を終えてダッシュで部屋に戻った。時は21時半を回っている。このあとツアー客全員でチャーターバスに乗り込んでオーロラ観賞スポットに向かうのだ。集合時間まであと30分もない。部屋で着替えようかと思ったけど、隣のベッドで奴はセーターを脱ぎ始めた。下着を重ね着するらしい。私も重ね着用のヒートテックを上下ともに持参している。ここでそのまま着替えるのもはばかられて、私はレンタル防寒着と着替えを抱えてバスルームに飛び込んだ。

 脱衣所でニットとジーンズを脱いで下着を重ねて、その上からモコモコのニットとスパッツを着る。次は防寒着、まずはオーバーオールをはいた。黒いズボンに黒い肩ベルト、もう一度肩ベルトの長さを合わせてから目の覚めるスカイブルーのジャケットを羽織った。着ると結構重たい。ジャケットのファスナーを留めようと前かがみになる。


「ぬ……?」


 根元の金具ははまったが、うまくチャックが上がらない。何度もはめては上げ、外してはまたはめて上げるも何かに引っかかる。こんなときに限って!


「あーっ、もうっ。やだーっ」


 日本製ならこんなことはまずない。海外のモノってこんなの日常茶飯事なのか。改めて自分がジャパニーズであることを誇りに思う。なんてふけってる場合じゃない。このファスナーが上がらなければ私は外になんて出られない。だって外気はマイナス20℃、バナナで釘が打てる世界なのだ。

 そのとき、ガチャンとドアノブの回る音がした。


「どうかした?」
「ぎゃああああ☆★※@%$●○!!」


 そこにいたのは達哉。


「のぞくなっ、痴漢!」
「裸じゃねえじゃん。それにお前の貧弱な胸に興味ねえっつうの。叫び声が聞こえたからゴキブリでも出たのかと」
「アラスカにゴキブリなんかいるわけないじゃない、バカっ!」
「わかんねーぞ。今は北海道にもゴキブリいるっつうじゃんか。アラスカにいてもおかしくねーし」
「達哉の頭の方がおかしい……えっ??」
「ファスナー壊れてるのか?」


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