いきなりプロポーズ!?
……あれから1年、私はひとりだった。フラれるというバズーカ砲で私のハートは木端微塵だった。あまりのショックに婚活などしようとも思わなかったし、そんな私を見てまわりの誰ひとり結婚の二文字を口にしなかった。だから合コンだのお見合いだの、話も来なかった。繊細な三十路目前の女に気遣って皆が口をつぐんでいたのだと思う。毎日会社のボールペンを回しては時間をつぶしていた。
何をするでもなく、毎日が色あせて暇。
おしゃれをする気にもなれず、だらだらと過ごす。給料もボーナスも使う気力もなくそのまま貯金。相手もいないのに結婚資金だけが大きくなっていく。無駄にペン回しだけがうまくなっていく。
はあ……。無意味だ。ペン回しの達人になったところでなにになるというのか。
何かを変えたい。そしてなにか策はないかとペンを回す。
仕事帰り、だらだらと歩く。さすがに歩きながらペンは回せないから手持無沙汰にお店を眺める。駅構内にある旅行代理店のパンフが目に入った。国内外のカラフルなパンフのなかに北アメリカ・カナダなるものがあった。それを指でつまみあげる。
「アラスカフェアバンクス直行便、夜空に浮かぶ幻想的なカーテン、オーロラ。感動を味わいに行きませんか、か」
ふん、と鼻を鳴らした。そんなに素晴らしいものなのか、ひん曲がった虹みたいなやつがそんなに綺麗なのか。職を捨てて女を見捨てるほど、30年間培ってきた価値観を覆すほどオーロラはすごいのか。
そんなにすごいものなら、私も変わるかもしれない。
いく、いかない、いく、いかない、いく……。
「よしっ!」
私はその紙切れをぎゅうと握りしめ、旅行代理店の自動ドアをくぐった。