いきなりプロポーズ!?


 そのあと私は黙り込んだ。くやしいが立派なAカップである。


「じゃあAAカップ?」


 クスクスと笑っていた奴はゲラゲラと声を上げて笑い出した。私は奴の股間を蹴り上げてからバスルームを出て、同じくレンタルのブーツに履き替え、レンタルのごつい黒のグローブを脇に抱えて部屋を出た。防寒着の上からの蹴りはあまり威力がなかったようで奴はひたすらに笑っている。まるで笑い袋みたいに。

 ロビー集合時刻ぎりぎりで滑り込み、チャーターバスに乗り込むと、ツアー客を乗せたバスは目的地へと出発した。このフェアバンクス市内でもオーロラは見えることもあるらしいが、いかんせん自然現象、オーロラが出るとも限らないし、出たとしてもかすかに光るだけときもある。それを考慮して光害のない(街明かりのない)山奥まで行くのが通例、この“オーロラ観賞ツアー”だ。そのバスにも私と達哉は並んで座る。奴のでかい図体は私の身を狭くした。奴の上半身は座席からはみ出して私の肩が食い込んでいる。こんな大男の恋人のフリもひと苦労だ。

 バスの窓からは雪原と樹氷しか見えなかった。ずっと同じところをグルグルと走らされてる錯覚を起こす。タクシーならぼったくりかと思われる状況。しかしこれはチャーターバス、ツアーの。そんなことをしてガソリンの無駄遣いだ。手持ち無沙汰に車内を見回す。そろそろツアーのメンツも覚えてきた。

 フェアバンクスまでのチャーター便には他の旅行代理店のツアー客もいた。その客達は別のホテルで別行動だ。ああ、なんでこんな奴と同じツアーに申し込んでしまったのだろう。違う旅行代理店に駆け込んでいればきっといま頃ひとり旅を満喫していたに違いない。

 1時間もしないうちにバスは見晴らしのいい場所に停まった。近くには防風林に囲まれたキャビン、ここでオーロラの出現を待つらしい。バスを降りて空を見上げる。雲はほとんど無い。満天の星に皆はそれだけで声を上げた。天の川もはっきりと分かる。教科書で見たことのある星座があちこちに浮かんでいた。でも残念ながらオーロラらしきものは出ていなかった。


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