いきなりプロポーズ!?
視線の先には達哉の後ろ姿。白いセーターの奴はクマだ、クマ。がおーっと誰かれ構わず襲うアホなオスだ。私の直感は間違っていた。アラスカくんだりやって来たのに出会った男は最低な男。奴はなみなみと湯を注いだカップを片手に、それをやや寄り目で見つめながら、こぼさないようにゆっくりと、そして忍び足でベンチに戻ってくる。クマがおっかなびっくりで小さなものに神経を注ぐ姿はなんかちょっとかわいい。
マグに口をつけてカサを減らしてから達哉はそっとベンチに腰掛けた。
「ねえ、達哉はなんでこのツアーに?」
「ヒマだから」
「は?」
「悪い?」
「悪い」
「なんで」
「なんでも」
「なんだよ、それ」
「達哉がこのツアーに申し込まなければひょっとしたらシングルの部屋でひとり旅を満喫できたかもしれないじゃない」
「分かんねえよ。もしかしたらバーコード頭のオッサンと同室になってたかもしれないぜ?」
「そんな年上の男なら添乗員の神山さんだってすぐ気がつくわよ」
「今は年の差婚もはやりだからな。案外分かんないもんだぜ」
「そうよね。って、もう!」
奴も私もちょっと笑って、奴はココアをこぼしそうになって慌ててズズっとすすった。
「ヒマだったなんて嘘」
「ん?」
「俺も失恋旅行」
「へ??」
私は驚いて隣に座る奴の顔を見た。でも達哉は真っ正面にある壁をぼんやりと見つめていた。ふう、と細く吹き出した奴のココアの息は白い。切なそうな奴の表情は、生きた魚を目の前で逃したシロクマみたいだ。