いきなりプロポーズ!?

 そう言って鈴木夫人はカメラを抱えて会釈をすると御主人とともにキャビンに向かっていく。二人寄り添い、時折顔を合わせて話しながら歩く。あんな風に年を重ねていきたい。一歩下がった日本女性的な控え目な奥様って感じで。


 ポン、と肩を叩かれた。


「お前、あんな奥様みたいになりたいって思っただろ。うっとり眺めてたな」
「うん。素敵だなあって」
「お前みたいなチンチクリンには無理。言葉づかいからしてなってないしでしゃばりだし」
「うるさい。それは達哉が」
「なあ。見えるといいな」
「なんで話が飛ぶの。あんたと見るくらいなら見えなくていい」
「は? オーロラ見に来たんだろ?」
「まあそうだけど」


 空を見上げる。暗い空にちりばめられた無数の星は、今まで一番綺麗だと思っていたクリスマスツリーの電飾よりもはるか上の輝きだ。宝石箱をひっくりかえしたようにたさんの星がきらめき、瞬く。まるで降ってきそうなほど。手を伸ばせばつかめてしまそうな。


「空が近いな」
「え……」


 思わず視線を隣のクマ男にやる。だってほぼ同じことを考えていたから。達哉は空を見上げたまま、でーんと突っ立ている。コイツは突然意識がワープする生き物らしい。ひょっとして今思いをはせてるのは元カノとか? 失恋旅行って言ってたのは本当かもしれない。そんなことをふと思った。


  







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