いきなりプロポーズ!?
「おい」
ここで聞こえてはいけないはずの男の声に背後に振り向く。磨り硝子の向こう側には白い影。まさかシロクマ??
いや、違う。シロクマの剥製がここまで歩いてこれるわけがないし、しゃべるはずもない。
「☆★※@%$●○!!」
ああっ、奴だ! だって白いセーターを着ていたではないか! 私は大切なAカップの胸を両手で隠した。片手でも十分なんだけど、そこはあえて黙っていることとする。わざと両手で隠して寄せて谷間を作っているのも無意識だが、あえて内緒だ。
「ぎゃあああっ! 痴漢っ!」
「うるせえな、いちいち。女の裸には興味ねえんだよ」
すりガラスの向こうシロクマ男はしゃべる。
「ホモ?」
「ちげーし。早く上がれよ、20分も経ってるぜ」
いけない。ぼうっとしてシャワー浴びていた。元カレの松田さんを思い出すと時間の感覚が麻痺してしまう。いつもそうだ。
「分かったからっ、すぐ出るからそこどいて!」
「早くしろよ。じゃ」
ガラスの向こうに白い図体が消えたことを確認してから腕を外した。シャンプーも適当に浴室を出て、脱衣所のドアを少しだけ開けてのぞき見してないか確かめて、私はざざっとバスタオルで肌を拭いた。まったく油断も隙もありゃしない。
部屋に戻ると達哉はベッドの上で大の字に寝ていた。いびきに近い大きな寝息を立てている。待ちわびて寝てしまったんだろう。起こそうと奴のベッドの横につく。鼻の穴をふくーっと膨らませてスーと息を吐く。無防備極まりない姿だ。指で軽くツンツンと頬を突くけどぴくりともしない。シャワー空いたよって揺すって起こそうか。どうしようか迷う。今日はひたすらに長い一日だったし、明日はオーロラ観光まで自由時間だ。私は気持ちよさそうに寝ている奴をそのままにクローゼットから予備の布団を引っ張りだし、奴にふんわりと掛けた。
私もベッドに入る。横を向いて、おやすみ、と声を掛けてからスタンドの明りを消した。