いきなりプロポーズ!?


 そこそこ背はあって、太腿も太い。肩もがっちりしてるし、かと言ってデブという感じでもない。達哉はバックパックからチャック付きのビニール袋を取り出した。大きめのそれはペタンと空気が抜かれている。着替えのようだ。


「何見とれてんだよ」
「べべべ別に。いい体してるって」
「やっぱり見とれてんじゃんかよ、痴女」
「仕事何してるの。肉体系?」
「まあ、一応。何だと思う?」


 達哉は白い半袖のアンダーシャツを被って頭を出した。太い首、喉仏。シャツを着た上でも分かるごつい肩。上半身。次に奴が手にしたユーズド風のこなれたジーンズは褪せたターコイズブルー、太ももの辺りはぱつぱつだ。


「んー、配送業?」
「近いかも」
「宅配便?」
「それ配送業だろ」
「じゃあフォークリフト?」
「それ機械だろ、バカか」
「じゃあ何?」
「夜逃げの手伝い」
「ええ?」
「でなきゃこんなに稼げないだろ。それに筋肉がないと短時間で荷物を運び出せないだろ? 素早く一気に部屋からトラックへ持ち出す、これ基本。足も鍛えないとダメ。追いかけてくるのは借金取りの類の怖いお兄さんばっかだぜ? 逃げ足の遅い奴は捕まって終わりだからな」


 うそ……。私こんな危ない人と一緒にいるんなんて。顔から血の気が引いていく。寝ているうちに手首足首を縄で縛られて売りとばされたらどうしよう。売られた先で昼夜を問わず客を取らされて、いや待て裸にされた時点で私はアウトだろう。お前みたいな貧乳は金にならん!、と首根っこつかまれて凍りつくアラスカの海に投げ込まれたら一貫の終わりだ。

 そんなことを考えていると達哉は肩を震わせる。


「だ、だましたわね!」
「引っかかるほうが悪いの。早く着替えろよ。10時過ぎたら朝食終わりだぜ。チケットが無駄になる」


 私は慌てて飛び起きて着替えを持ってバスルームで着がえた。

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