いきなりプロポーズ!?


 達哉はパンケーキの山にナイフをあてると一気に押し下げて真っ二つにした。その割れた面にもシロップは垂れてしみこんでいく。


「うえ……」
「だから見るなよ。こういうところのはこのくらいかけたほうが美味いんだよ」
「そっかなあ。うう」


 大口を開けてそれを食べる達哉。まるでジンベエザメだ。パフーパフーと口を優雅に開け閉めして次々に獲物をかき込んでいく。よほど腹が減ってるのか、甘いものが好きなのか。まあ、デリカシーもない奴には味覚もないんだろう。


「さっきの話、どこまで本当なの? 配送業って」
「愛弓はいわゆるOL? 菜の花文具って言ってたけど」
「まあ、そうかな」


 本当にこいつは話を勝手にそらす。人の話を聞いてない強引な奴だ。奴も失恋旅行ならきっとこっぴどくフラれたに違いない。私もパンケーキを切り分けて口に運んだ。ちょっと甘い。生地自体の甘みも強い。


「別れた元カレって会社のひと?」
「うん。っていうか正確には取引先のひと。会ってその日に食事に誘われて」
「その日のうちにやったのかよ」
「ふざけないでよ。そんなことしてないし、そんなことするひとじゃない」
「じゃあどんな人?」
「えっと身長は180センチで体重70キロでイケメン」
「そういうこと聞いてねえよ。そんな情報どうでもいい」
「どういうこと聞きたいのよ」
「どんな風に知り合ってどんな風に付き合って。まあ内面的なこと」
「あんたと違って優しいし、バカアホって野蛮な言葉を使わないひと」
「長身でイケメンで礼儀正しい男がお前に一目ぼれしたってか?」


 奴はパンケーキの山を半分平らげていた。そういえば昨日のランチも鈴木夫妻が食べきれないから手伝ってと言われて彼らの分も食べていたのを思い出した。エンゲル係数の高い男だ。


「甘いな」
「そんなにシロップかけるからよ」
「お前だよ。それ、だまされてねえか? お前がそんなにモテるとは思えないってこと」
「ふん」


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