いきなりプロポーズ!?


「こんにちは」


 突然女性から声を掛けられて喉もとのパンケーキをつかえそうになった。横を見上げれば鈴木夫人だった。水を飲んでゴクリと流し込む。ご夫妻は今日も仲良くおそろいのセーターだ。でも昨日のとは違うアラン模様の色違い、木のボタン付きのカーディガン風。昨日のランチはお世話になりました、と夫人はにこやかに言う。こういう優しい笑顔に癒される。


「あらあら。夫婦喧嘩?」
「ふ、夫婦じゃないです!」
「まあ。照れなくても。いずれは夫婦になるんでしょ?」
「……分かりません」
「早く仲直りしなさいね。じゃあまた」


 夫妻は会釈してレストランを出ていく。本当に私と達哉を恋人だと思っているらしい。しかも婚約者。


「マズくねえか?」
「なにが。スープ? これは美味しいと思うけど」
「バカ。今の話聞かれたんじゃねえのかってこと」
「そう?」
「まあ、仮に聞かれても言いふらしそうな感じじゃないけどな」
「そうだね。でも気をつけたほうがいいね、向こうの女の子のグループもおんなじツアーだし」


 奥のテーブルにいた女性客3人はこちらを見てニタニタしてヒソヒソと話している。なんかヤラシイし。思わず細目で彼女たちを威嚇する。私の目つきが変わったのを察知してか、達哉は後ろを振り返って彼女たちのほうに顔を向けた。その途端に彼女たちはキャーとかひゃーとか黄色い声を上げた。なに、あの変わりよう……ムカつく。女ってこれだからいやだ。男の視線で態度を変える。ふん。



< 46 / 144 >

この作品をシェア

pagetop