いきなりプロポーズ!?
「神山さんって」
「話してると転ぶぞ」
「あ、うん」
なんか不機嫌だ。手配を間違えた神山さんを敵にしているみたいだ。
路面は雪で覆われていて車道も歩道も見分けがつかない。それどころかどこが道なのか空き地なのか区別すらつかない。自動車のスパイクが付けたわだちで道路と判断する。車の往来は少ないけれど、そのわだちの横をそっと歩いた。達哉はその車道側で私の隣を歩く。ゆっくりのっさのっさと象のように動いている。奴の身長ならもっと早く歩けるはずなのに私に合わせる。こういうところは妙にフェミニストだ。松田さんもそうだった。デートのときはいつもゆっくり歩いてくれた。出世頭の松田さんは忙しくて、出かけるのも月に1度くらいだったけどいつも優しかった。
ズル。
ぼうっと考えていると雪に足を取られた。
「きゃあっ!」
ズルリと滑り、ふうっと上半身が下に落ちていく。突然の出来事に考えるのが追いつかなくて脳内はジェットコースターで急降下したときのようにくらりとした。
「おい!」
二の腕が痛い。肩もずしりとした。でもお尻は痛くないし、冷たくもない。腕を見ると奴が私をすくい上げるようにつかんでいた。コケそうになったところを奴に助けてもらったらしい。
「なにボケッとしてんだよ」
「うるさい。だっ……」
見上げればすぐ目の前には奴の顔。なぜか奴は真っ直ぐに私を見つめていて、というよりは、睨んでいる。その表情に私は息を止めた。
「な、なに」
「気をつけろよ。お前が転んだら地割れするだろ」
「するわけないでしょ」
「どうせ元彼を思い出してたんだろ? それかアイツのことでも考えてたか?」
「あいつ?」
「神山。優しそうとか思ってんだろ?」
「ええ、ええ、そーですとも! 松田さんも神山さんも達哉みたいに口減らずじゃないし、優しいし!」
そう答えると達哉は一瞬、口をとがらせた。