いきなりプロポーズ!?

 そんなわけで。

 バッタバタと準備をし、部屋で何度もパスポートの確認をしてアパートを出た。集合は夕方の17時。貯金の半分をはたいてやって来た年末の空港は、海外脱出組、国内帰省組が入り混じり大混雑。ガラガラとピンクのキャリーケースを転がして団体チェックインカウンターへ向かい、搭乗手続きをしてから集合場所の特別待合室Bへ向かう。途中、ウールのかわいい帽子を見つけて購入。人との出会いも一期一会だけど、モノとの出会いも同じだと思う。なんかいい予感がする。

 到着するとたくさんの人がいた。ちょっと狭めの会議室みたいな部屋に老若男女がひしめいていた。オーロラを見に行く人がこんなにいるのかと少々驚いたがそれはそれで心強い。グループ、カップルなど様々だが、私の他にも“おひとりさま”はいるようだった。あの赤い毛糸の帽子をかぶってる彼もそう。誰かと待ち合わせてるのかと思ったけど指定の時間を過ぎてもひとりだし、かといって誰かを探す様子もない。そういえばどことなく松田さんに背格好が似てる。年も服の感じもスマホをいじる姿も何となく。モスグリーンのダウンジャケット、ユーズド風のこなれた風合いのジーンズ。オーロラに魅了される人間はタイプも似るんだろうか。どうしたって思い出してしまう。でもあれっきり元カレとは連絡を取っていない。いまごろどの国で何をしているだろ……。

 ツアーの注意事項とオーロラに関するレクチャーを受けたあと、時間になり皆で移動した。ハンコを押してもらうだけという簡単な出国手続きを済ませて搭乗する。機内には私が参加したKKBツアー以外にも乗り合わせているようで、さっきとは違う面々も座席を探している。私は窓側の席。久々の機内の雰囲気にいよいよだと思いながら小さい窓から空港の夜景を眺めた。暗い車窓には明るい機内の景色も重なる。

 その暗い窓面にポンポン付きの赤い帽子をかぶった男性が映った。思わず振り返るととなりに例の彼が乗り込んできたではないか。背も高いから座高も高い。私の頭一つ分も上に抜けている。同じツアーだし、隣同士になる確率も高いのかもしれない。でもこんな偶然、そうそうない。

 機内ではキャビンアテンダントが巡回しシートベルトを確認する。アナウンスがされ、機内の乗客は瞬時に無言になった。ゆっくりと機体は動き出し、真っ暗い滑走路へ向かう。ジェットの轟音とともに震動し背中にGがかかった。次の瞬間、ふわりと宙に浮き、音は静かになった。上昇していく機体と同様、私の期待も昇っていく。

 機体が水平に安定して、シートベルトをはずしていいというアナウンスが聞こえた。私は肩の力を抜いた。

 横から感じる視線。正しくは上斜め横。そっと横を向くと、赤帽さんはにっこり笑った。松田さんよりイケメンかも……?


「よろしく。KKBのツアーでしょ?」
「はい」
「アンタもひとり?」
「あ……」



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