いきなりプロポーズ!?


「よく泣いてたんだ、事務所の隅で」
「で、同情して惚れちゃったのね」
「まあな。そのたびに連れ出して愚痴聞いて。何度も別れろっていったけど、無理だよな。本気で惚れちまってたからさ」


 達哉はグラスにあったワインをがあっと空けて手酌で注ぐ。フルボトルの透明な瓶を満たしていたピンクの液体は半分になっていた。なんだろう、この哀愁漂う雰囲気。まるで中年サラリーマンが高架下の小料理屋で熱燗をひとりで飲んでる光景そのものではないか。現代社会のワビサビそのものだ。


「じゃあ結局付き合えなかったの?」
「それが、そのどうしようもない彼氏と別れたんだよ」
「ラッキーじゃん」
「ラッキーじゃねえよ。あちこちに女作って、そのたびに泣かされて、それでもしがみついてたのに、ある日突然結婚するからサヨナラって。仕事先でどこかの令嬢を紹介されたらしい。金と名誉に目がくらんであっさりと舞を捨てた」
「……ひどい」


 達哉は再びグラスのワインを一気飲みした。まっ正面を向いて目はカウンターの棚を見ていたけど、遠くを見ている。


「で、俺はプロポーズしたわけ」
「は? 唐突すぎない?」
「うるせえよ。待てなかったんだよ。舞も30過ぎてたし」
「え? 年上? ってかその前に達哉っていくつ?」
「27。お前は?」
「28」
「年上かよ」


< 57 / 144 >

この作品をシェア

pagetop