いきなりプロポーズ!?
時間が止まる。息も止まる。まっすぐな達哉の瞳に吸い込まれる。その言葉に私は気がおかしくなりそうだった。このセリフは私に向けられたものじゃない、舞さんへのプロポーズの言葉だ。頭の中で違うんだからと必死に言い聞かせるけど心はときめいたままだ。瞬きもできなくて、瞳はうるうるしてきた。
このままじゃいけない、この流れを遮ろうと私は必死に言葉を発した。
「ば、馬鹿じゃないの。いきなりプロポーズするなんて」
「悪いかよ」
「悪いなんて言ってない」
「顔が言ってるだろ」
「もともとこーゆー顔なの。好きな男に突然プロポーズされるなら嬉しいけど、別れた直後に後輩なわけでしょ、仕事の」
「三十路に入って長年付き合ってきた彼氏にフラれて、最高の告白だと思ったんだけどな」
「で、舞さんの返事は?」
「ノーだよ。彼を忘れられないってさ」
「でしょ? でもさ、それまで泣くたびに達哉に慰めてもらってたわけでしょ。会社の後輩かもしれないけど」
「“たっくんの気持ちにはうすうす気づいていて甘えてた、ごめんね”、って。」
「ふうん。それで傷心旅行なの?」
「まだ続きはあるけど」
達哉はスツールを降りてふたつむこうのスツールに座りなおした。そしてロゼワインを再びあおる。頬杖をつき、カシューナッツを口に入れる。その横顔を見ていると再びさっきの真っ直ぐな瞳とまっすぐなセリフが蘇ってくる。駄目だ、まだドキドキしている私。
突然奴がこっちを向いた。さっきとおんなじシチュエーション。
「ん?」
「ひぃ……」
きゅんとする胸、一瞬心臓が止まったとさえ思ったけど、それは再び大きく鼓動する。バクバク、ドキドキ、ドンドン、胸は痛いくらいだ。
「……な、なんでもない。サラダ食べたら少し寝るね」
「ああ。襲わないから安心して寝ろよ」
「うん」