いきなりプロポーズ!?
 いままでテレビや本で見たオーロラとは比べ物にならないほど細いし、色も緑の単色で味気なかったけれど、そういう次元とは違う感覚に私は胸がいっぱいになった。自然現象、人の手では作り出せない光のカーテン、荘厳な景色に感極まる。


「なんか……すごい」
「ああ」


 達哉と並んで北の空を眺める。すると自分の手にごそりと何かが当たる感触がした。レンタルのグローブをはめているから何が当たったのかは分からなかったけど、すぐに察知した。だってそれは私のグローブの上から私の手を握り締めてきたから。達哉の手。なんでこんなことをするのって聞きたいけど、聞いたら離してしまいそうだからあえて聞かなかった。

 このままずっと手をつないでいたい。胸がきゅんとする。もう自分でも分かっている。もう体は認めてしまっている。私はこの人が好きなんだって。手を放したくない……。

 でも達哉はぼそりと呟いた。


「舞……」


 ああ、そうだった。この男には舞さんという女性がいて心底惚れていて、プロポーズしてフラれたんだった。盛り上がった気持ちは一気に急降下した。現実に戻った。


「話途中だったね。舞さんとはどうなったの」
「フラれても何度もアタックした。3回目でようやく首を縦に振った」
「ふうん……」


 なんだ、うまくいってんじゃん……。こんな私を相手にしなくても達哉には達哉に似合う女性がいる。あれ……? でもなぜ、一緒に来なかったんだろう。


「なら連れてきちゃえばよかったじゃない。ほんとの婚前旅行」
「茶化すなよ、バカ……」


 達哉はどこか寂しげだった。空を見上げて白い息を吐く。その横顔に私は胸がチクリとした。オーロラを見上げる達哉がまるで彼女を思い出してるようにみえたから。


「舞は……」



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