いきなりプロポーズ!?
§6 犬もくわないなんとやら?
達哉と別行動をとるわけにもいかず、私はずっと達哉の横にいた。オーロラをぼんやり眺めたり、寒くなったらキャビンに戻ったり。さっき私をナンパしてきたグリーンのセーターを着た欧米人はどうやらキャビンオーナーの親戚らしかった。今度は別の女性客にアタックしている。日本女性なら誰かれ構わず、といったふうだ。
達哉とは会話していない。達哉が「キャビンに入るか?」と尋ねてくればうなずく。「ハーブティー飲むか?」と尋ねれてくればうなずく。「オーロラ見に行こうぜ」と言えばうなずく。私はひたすら黙っていた。
「まだ怒ってんのかよ」
満天の星空の下でそう尋ねられれば、上下に首を振る。
「ファーストキスってわけでもないだろ?」
同じくうなずく。
「いい加減、しゃべれよ。面倒くさい女!」
「どうせ私……あっ!」
いかん。しゃべってしまった。誘導尋問だ。達哉はゲラゲラと笑いだした。つられてしまい、私は笑いはしなかったが、黙ってることにも疲れていたから応戦することにした。
「ずるい」
「しゃべんねえほうがズルいだろ」
「だってキス……。間接じゃなくて直接キスだったから」
「マスク越しなら良かったのかよ、変だろ」
「そういう問題じゃなくて」
「じゃあもっと濃厚なキスをしてほしかったとか?」
達哉はにやりと笑って手を私の顎にやる。私はバンとそれを払いのけた。