イイコでしょ?
歌い終わるまで、目が離せずにいた。





どこか儚げな表情で歌う彼女は、何を思ってるんだろう。






街灯の灯りでぼんやりと浮かび上がった彼女は、歌い終えると、俺と同じようにため息をついて夜空を見上げていた。













不意に目が合う。





少し目を見開いた彼女だったけど、お互いなぜか視線を外す事はなくて。





俺をジーっと見つめては、人差し指と親指で四角を作って、その中に俺を入れて眺めていた。





「えっ?」





思わず声が出る。





彼女がニコッと微笑んだから。






視線を先に外したのは俺で、その笑顔にドキっとしてしまったから。






手で口を覆って、目の前の池に目をやると、リリが小さく吠えた。






なんだったんだ…今の。






外国に居た頃は、他人に笑顔を向けるなんて事は当たり前だったけど…





彼女が俺に向ける笑顔の意味が分からず、もう一度その場所に顔を向けてみる。





けど…





「…居ない?」






と、小さく呟くと、





「だれが?」





背後から聞こえた声に、心臓が止まりそうなくらい驚き、うわぁ!と叫んでしまった。






「驚き過ぎ」





リードを引っ張られたリリも驚いてワンワン吠えていた。






振り返らないままに、彼女は俺の横に自然と座り込んで、持っていたギターを横に立て掛けると、また指で作った四角で俺を見た。






「えっ?なに?それ。」





「んー。うん。気にしないで?」






変なコ。





首を傾げながらズレた尻を座り直して、リリを膝に乗せ頭を撫でて落ち着かせてやる。














「なんて名前?」





「俺?」





「違う、ワンちゃん。」





犬かよ…と思いながらも答えてやる。





「リリ。」





「ふーん。可愛いね。」





静かに流れる、時間。





寒いし、帰ればいいのに。





なんでか動かなくて。





二人黙って夜空を見上げた。













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