イイコでしょ?












コンコンとノックすると、何の躊躇いもなく開いたドア。






客人が私と分かると顔を顰めて、なんで…?って言った。





開いたドアと彼の隙間をスルリとすり抜けて、グレーの絨毯の上をズンズンと歩いて行った。





私が翔くんの為に予約を入れていたホテルは、窓からの夜景がとても美しくて、こんな状況じゃなければうっとりと眺めていただろう。





ソファー横のフロアランプの前で立ち止まると、後ろからやって来るのは疲れた足音と、深いため息。






「なに。帰ったんじゃねぇの?」






こんな事したって、無意味だって分かってる。




人として最低な行為だって事も重々承知してる。




だけど無理よ。




どうしたって忘れられないんだもの。




これは、お酒のせい。





さっき飲んだウォッカのせいよ。















「何も聞かずに今晩だけ…私を抱いてくれないかしら。」





シャツのボタンは小さいから、緊張で震えた手と私の長い爪のおかげで中々外れてくれない。





こんな時こそしっかりしなきゃいけないのに。















「由香ってほんとなんでも器用に出来る奴だな。」





そんな事言われたって、嬉しくもなんともない。





俺が居なくても一人でやってけんだろ、って言われてる気がしてすごく嫌だった。





でも、実際そうだったのかもしれない。




品行方正、容姿端麗。





周りからも常にそういう風に見られて、私も彼に見合うように必死になって。





それでも上辺だけ。





中身はホラ、こんな事しでかしちゃう最低な女なんだから…













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