イイコでしょ?












「何、言ってんの?」





「言葉の通りよ。あなと別れて仕事ばかりしてたら恋人も出来なくなっちゃって。知ってる?女だって溜まるのよ?」





もたつく指に苛立ちながらも、一つ二つ、ボタンは外れていく。






「…。」





「どうせ夫婦仲もよくないみたいだし、あなたも溜まってるんじゃない?」





「…由香。」





「お互い利害関係は一致してるはずよ?ここはNY。まずバレる心配はない。だから…」





「由香!」





強く名前を呼ばれ、ボタンを外そうと足掻いていた手をぎゅっと掴まれた。





その手にはしっかりと、日本の彼女へと繋がるシルバーリングがはめられていた。





「どうした…らしくねぇ。」




あぁ…私今すごく困らせてる。




付き合っていた頃よりもずっとずっと。




「なんか、嫌な事でもあったのか?酔ってんじゃん。」





そんなんじゃないの。




今でもあなたが好きで仕方ないの。




もう一度、あの頃のように優しく抱いてくれたら、忘れるから。





…そう目で訴えてみるけど。






「俺はもう、話聞いてやるくらいしか出来ねぇけど。」





そう言って、自分が着ていたカーディガンを私の肩にそっと掛けてくれた。
















噂なんて嘘っぱち。




夫婦仲が悪いなんて、誰が言い始めたのか。




翔くんがあの子を大切に想う気持ち、私には手に取るように分かった。




悔しいぐらいに彼の気持ちを独り占めして。





最初は憎かった。





彼の為に別れて、彼を支える為に必死に追いつこうと仕事を頑張って。





やっとの事で秘書という地位で彼を支えて行けると思ったら、見計らったように現れたの。





好きな人の恋に落ちる姿なんて、相手が自分じゃない限り、見たくないに決まってるじゃない。





神様は私の事が嫌いみたい。






あっけなく二人は結婚してしまって、私に入る隙さえも与えてはくれなかった。





宙ぶらりんになってしまった私の心。





既婚者になってしまったという事実が私をずっと苦しめて来た。





彼の為に就いた秘書という地位が、今じゃ邪魔でしょうがない。





毎日顔を合わせてしまうから、諦めたくても諦めきれなくて、恋する彼の顔を毎日見るのがどうしようもなく辛かった。
< 193 / 242 >

この作品をシェア

pagetop