イイコでしょ?












昼間食堂で言われた。





「今日は俺も仕事あるから帰りは一人で帰ってよ。」





と。定時上がりの私は、仕事を終えるとそそくさと帰る支度をする。





今日出社予定だった井上さんの事が気にならないって言ったら嘘になるけど、




それでも私には翔さんを信じて待つ事しか出来ない。





左手の薬指にそっと、想いを寄せた。





もうすぐ帰国する翔さんの為に、料理のレパートリーを増やそうと、今日もいつものスーパーへ行こうと企む。






今日は何作ろうかな。





翔さんお蕎麦好きだけど…さすがにお蕎麦は打てないな。





料理教室通いたいけどお金もったいないしな。





そんな事を思い浮かべながら、会社から駅へとぼんやりと歩く。

















買い物カゴを下げながら、鮮魚コーナーを歩く。






あ、ブリが安い。





照り焼きにでもしようかな…





安売りされてるブリに手を伸ばそうとしたその時、






ガシッ!






伸ばした腕を力強く握られ、心臓が飛び跳ね小さな悲鳴をあげる。






「ひゃっ!?な、なに?」






私の腕を掴んだ手を視線で辿ると、大きなサングラスをかけた女性が…






ワケが分からないままに、そのまま引っ張られるようにして出口へと向かって歩く。





みんな見てるし、コレじゃ私万引き犯みたい!!





なんなのこの人!





無言でカツカツと黒いヒールを響かせて歩く姿は、すごく威圧感たっぷりで萎縮してしまう。






掴まれた腕がすごく痛い。






お店を出ると駐車場が広がっていて、そこに停めてあった真っ赤でド派手な車の助手席へと押し込まれてしまった。
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