イイコでしょ?
入口のところで前屈みになり息を整えている男性が…






あれは確か…






その男性は、私を見るなり困り顔で声をかけてきた。






「…はぁはぁ…あぁーー、ちょっとちょっと!お茶淹れてくれる?今日秘書の子居なくてさぁ~。」






「お茶?」






「うん。オチャ!社長室まで二つ持ってって?はい、よろしく!」






「……えっ?」






聞き返す事も出来ないままに、あっという間に走り去ってしまった。






あの人は確か専務の…あら…なんだっけ?






ぼんやりと、何かに急いでいる専務の背中を見つめながら、大変な任務を任された事に気が付いた。



















給湯室には何種類かお茶っ葉が並んでいて、手を差し出しては引っ込めて、を繰り返し散々悩んだ。






何でこんなにもお茶の種類があるのよ。





どれを淹れたらいいかわかんない…





社長室だなんて、社長に会った事すら無いのに。






でも、もたもたしてる場合じゃないし…


















悩んだあげくに目を閉じて選んだお茶を淹れて、社長室の前まで来た。





この大きな扉の向こうに、社長が。






深く深呼吸をし、ゴクリと唾を飲んだ。





少し震える手で、コンコンと二回ノックをした。






「失礼します。お茶をお持ち…」






と頭を少し下げると直ぐに、私の耳には思いもよらない言葉が流れこんできた。






「この人が、僕の結婚したい相手です。」


と、成瀬さんが言うから、



「え??」






あんなマヌケな声が出たのは、生まれて初めてだった。












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