イイコでしょ?
「あれほら、しし座。分かる?」





タバコを挟んだ指で星を指差すカズにぃ。





夜はまだまだ冷える。





身体を縮こませながら横に並んで星を見上げ、しし座を探す。




「ん…でもあんまり見えないね。そう言えばさ、あのプラネタリウム……」






背中がフワリと暖かくなる。





カズにぃが不意に後ろから私を抱きしめたからだ。




「……っ?」






「美希が言うように、取り戻したいだけかも知れねえ。だけど俺は…今でも美希は大切な存在だし…

少なくとも美希を泣かせるような奴よりは…好きだよ。」





私の髪のせいで、カズにぃの声がくぐもって聞こえる。





優しい、声。



カズにぃの、声だ。






「カズにぃ…すごく嬉しいよ。カズにぃにそう言って貰えるなんて、勿体無いくらい。

だけどやっぱり私、成瀬さんの事…」





抱きしめる力が強くなる。





私の髪に埋もれるカズにぃの顔。





覗いたうなじに柔らかくキス。





チュッ…という甘い音が耳に流れ込むと、唇が触れた場所がビリビリと痺れた。





「かっカズにぃ何して…」





「好きだよ…美希。」





「…っ、ダメだって!カズにぃやっぱ私帰るっ!」





「帰るって、どこに?あいつんとこ行っても、美希の居場所はあんの?」





「……。」





「そんな辛そうにしてる美希、見たくねんだよ。」
















居場所…




私の居場所…どこ?




とても自分の家とは思えないあの家が、私の居場所?




頭の中にずっと回り続ける言葉。




そうしている内に、無意識に一駅手前で降りてしまった。





時計はもう9時を回っていた。





電話…掛け直すのに躊躇してしまうのは、さっきまでカズにぃの部屋に居た罪悪感からなのか。




ホームのベンチに一人座り込んで、ケータイの画面に成瀬さんの名前を出しては消してを繰り返した。





あんな喧嘩した後だし…帰りずらいのは確か。



だけどそれ以前に、私の居場所じゃないような気がして…




次の電車が駅に入ってくる。




それ程大きくない駅。




降車するお客さんも疎らで、みんな改札へ向かい足を急がせる。





みんな居場所があるんだな。




そんな何気ない風景が羨ましく思えた。






「あれ?美希じゃん。」





驚いて松本さんの声に素早く反応し、背筋がピシッと伸びた。












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