イイコでしょ?
行くぞ、と、素っ気なく発した言葉と一緒に歩き出した成瀬さんの背中を追う。





広くて厚い背中をチラッと見ながら、どんな顔をして歩いているのか想像してみる。





どうしよう…





なんか…謝った方がいいかな。





大っ嫌いって、言っちゃったし。





難しい顔をして考えているせいで、せかせか歩く成瀬さんから少し遅れを取ってしまっていた。






振り返った成瀬さんは、呆れたようにため息をつく。





すごく辛くて、そんな姿を見ないようにエントランスで立ち止まった成瀬さんに駆け寄った。





カツカツと、私の靴の足音が響く。






すいません、って言うのもなんだか苦しくて言えなくて…頭をぺこりと下げるだけだった。






すると…






______ぎゅぅ。






突然繋がれた右手。





驚いて成瀬さんの顔を見上げるけど、すでに前を向いて歩き出していた。






「遅えよ、バーカ。」






そんな事言われたのに、繋がれた右手がすごくすごくあったかくて、嬉しくて泣きたくなった。






成瀬さんの左手には、私と同じシルバーリングがはめてあって、




指でそれに触れると、たとえ偽りだったとしても、私の心は安心した。






何も言わないけど、エレベーターに乗っても、家に着いても、その手は離れる事はなかった。

















玄関に入ると直ぐに、電気も点けないまま、ドン、と身体を壁に押し付けられた。





身体をビクッと強張らせ、暗闇の中の成瀬さんを見上げる。





「…俺の事、怖え?」





低く、呻くように囁かれた言葉に、ドキリとする。




何時もよりも自信のなさそうな…そんな声だったから。





成瀬さんの問いに、私は頭を横に振って答えた。






「嘘つくな。震えてる、身体。」






薄っすらと見える成瀬さんの顔が、とても切なそうに見えて、なんだか胸の奥が苦しくなる。





唇をきゅっと結んで俯くと、フワリと頬を包み込まれた。






不意に顔をあげると、今度は成瀬さんが私と同じように俯いているのが分かった。






「成瀬…さん?あの…ごめ…」






「早く風呂入って寝ろ。」






言葉を遮られる。





昨日大っ嫌いって言った事、謝ろうと思ったのに…




成瀬さんはそんな私を残して、スタスタと部屋へ入って行ってしまった。













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