緑と石の物語
「…そんなわけでさ、これが今朝リーズが持ってきてくれたお菓子だよ。」

「相変わらずすごい量だな。」

「……ねぇ、レヴ…
昨日、何かあったのかい?」

「な、何だ、唐突に…
特にこれといったことはなかったが…」

口ではそう言ったが、レヴの脳裏には昨日の一シーンが思い出されていた。

瞼が腫れ赤くなった鼻をしたリーズをみつけた時、なぜだかたまらず抱き締めてしまった時のことを。

すぐに泣いたり笑ったり…
まるで子供のように感情を露にするリーズに振り回されながらも、彼女のことが妙に気にかかる。
守ってやらないといけないような気分になってしまうのだ。
彼女は今までに出会った女性とは違う。

レヴにはリーズの心が読めない。



(そこが、気にかかる点なのかもしれないな…)

レヴは、自分の気持ちをそんな風に分析した。



「な~んか、違うんだよねぇ…」

「何がだ?」

「リーズの態度がだよ。
あたしに急に優しくなったっていうのか…なんか全然違うんだよ。」

「それは君の思い過ごしだろう。」

「そうかなぁ…?」

「そんなことより、せっかくのお菓子だ。
いただこう。」

「そうだね。
こいつは相当頑張らないと食べきれないや!」







それから何日かが過ぎた頃、サリーの心にも少しづつ変化が起こっていた。

「うん!これもなかなか良い味してるよ!
リーズは本当に料理がうまいね。」

「本当ですか~?
サリーさんにそんな風に言ってもらえると、とっても嬉しいです~!
これも、シェフにいろいろ教えてもらったおかげです!」

「あんた、本当に熱心に教わってるよね。
たまにはどこかに遊びにいってきたらどうなんだい?」

「でも、私、お料理が大好きですから!
それに、あんな素晴らしいシェフにお料理を教えていただける機会なんてめったにありませんからね。」

リーズは目を輝かせてそう言った。



「でも、あんたはレヴのことを…」

「えっ…?」

「い、いや…なんでもないんだ…
ただ、あたし達も近いうちに旅に出るしさ…
そしたらもう会えなくなるわけだし…つまり、会えるのは今のうちだけで……」

「………そうでしたね…」

今までのような楽しい日々は、このままずっと続くわけではないのだ…
レヴはいずれ旅に出る、そして自分は家に帰らなくてはならない…

リーズはそのまま下を向いて黙りこんでしまった。
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