緑と石の物語




「父上、母上、近々リーズさんのご両親にご挨拶に行って来ようと思うのですが…」

「そうだな。そうしなさい。
こういうことは早い方が良い。
それで式はいつどこで挙げるんだ?」

「そのことですが…」

レヴは、予定通り旅に出ること、そして、その旅から無事に帰って来れた時に結婚すること、それから、自分に万一のことがあった場合にはリーズが暮らしていくのに十分なものを与えてくれるように両親に頼んだ。



「…あなた、なにか危険なことに巻き込まれてるんじゃ…」

「……いえ…私は、私のなすべきことをするだけなのです。」

「おまえは子供の頃から、言い出したら聞かない子だったからな…
リーズさんのことは心配しなくても良い。
だが…無茶はしないでおくれ。
必ず、無事に帰って来るんだぞ。」

「もちろんですよ。」







数日後、レヴはリーズと共に、リーズの屋敷に向かった。
それにはヴェールも同行することになった。
自分に何が出来るかはわからないが、いざという時はレヴのことを守りたい…
ヴェールのそういう想いからだった。

あれから、ヴェールの石との対話はそれほどの進歩はみられなかったが、それでも、毎晩の鍛練は欠かさなかった。

レヴにふりかかる災難が石のこととは限らない。
しかし、もしそうだったとしたら、今度こそ自分しか頼れる人はいない。
そう思うと、ヴェールの鍛錬には自然と気持ちがこもった。



まず、三人は、フレデリックの所に立ち寄った。
フレデリックもローラもレヴの婚約の話にとても驚き、そしてとても喜んでくれた。

こっちでもぜひ簡単な婚約披露パーティをやらせてくれと言い出し、レヴ達はしばらくフレデリック邸に滞在することになった。

次の日、レヴはリーズの屋敷を訪ねた。
リーズの両親は腰が抜けるほど驚いていたが、二人の婚約を涙を流して喜んだ。

レヴは事情を話し、結婚式はまだだいぶ先になるということを話したが、リーズの両親はそのことも快く許した。



「レヴ様…私、まだ夢を見てるようです。
状況は着々と変わっていっているのに、それがまるで他人事みたいに感じられるんです。
本当なんでしょうか?
私が、レヴ様と婚約するだなんて…」

「ええ…本当のことですよ。
こうすれば夢じゃないということがわかりますか?」

レヴはリーズを抱き締め、その柔らかい唇に何度も口付けた。

今までよりもずっと激しいキス…初めてのしょっぱくないキス…



「レヴ様……
私…ますます夢みたいに想えてきました…」

とろけるような瞳で桜色に頬を染めたリーズがささやくように呟いた。



「では、もう一度…」



(今はこんなに幸せなのに…)



レヴはリーズに口付けながら、サリーの言った言葉を思い出していた…
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