緑と石の物語




「行ってらっしゃい!」

リーズはエリサと共に馬車を見送った。

両親と兄は、親戚の結婚式に出かけたのだ。

リーズも行こうかどうしようかとさんざん迷ったが、親戚の家まではかなり遠い。
往復するだけで十日近くかかってしまう。
行ってすぐに帰るというわけにもいかないし、行けば少なくとも二週間近くはここを離れることになる。

今は、ほんの僅かな間もレヴと離れたくないと感じるリーズにとって二週間は長すぎる。

だから、エリサと共に屋敷に残ることにしたのだ。



「皆様、行ってしまわれましたね…
リーズ様と二人っきりで過ごすなんて初めてですね。」

「本当ね…
なんだか寂しいわ…」

リーズは、小さな声でそう答えた。



「では、レヴ様にお願いして、こちらに泊まっていただきましょうか?」

「変なこと言わないでよ!
そんなことしたら、まわりの人達に何を言われるか…」

「誰も何も言いませんよ。
だって、リーズ様とレヴ様はご婚約なさってるんですもの!」

「そうは言ってもまだ口約束だけなのよ。」

「大丈夫ですわ。
レヴ様は裏切るような方じゃありませんもの。
それに、こちらにもすでにご挨拶にも来られてるんですから!
誰にも何も言わせませんわ!」

エリサは、そう言って、拳をぎゅっと握りしめた。



「でも、まだ皆さんには発表してないんだから…」

「そうでしたね。
それで、フレデリック様のお屋敷でのパーティはいつなさるんですか?」

「近々…ということだけしかうかがってないんだけど…」

「そうでしたか…楽しみですわね!
ところで、今日はいかがされますか?
レヴ様と会われるのですか?」

「今日は、レヴ様はヴェールさんと馬で遠出してくるっておっしゃってたわ…」

リーズの蚊の鳴くような声でそう答える。



「まぁ、それはお寂しいこと!」

「なによ、エリサったら意地悪ね!
一日位会わなくったって、どうってことないわ!」

「本当ですか?
また、寂しい…って、お泣きになるんじゃ…」

「私、そんな泣き虫じゃないわ!」

「それならよろしいんですが…
そうそう、今日は広場に市が立つらしいですよ。
気分転換にのぞきに行ってみましょうか?」

「そうね、面白そうだわ!
行ってみましょう!」



リーズとエリサは市場へ出掛けた。

このあたりに市が立つのは珍しいこと。

さしてたいしたものがあるわけではないのだが、物珍しさから大勢の客が詰め掛けていた。
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