緑と石の物語





(あ……)

気が付けば、丸い月は海に帰り、その代わりにまばゆい朝日が顔をのぞかせていた。

ユスカの舞いとエイラの歌声は疲れを知らず、まるで何かにとり憑かれたように何時間も続いていたのだった…
そして、それを見守る森の民達も時を忘れ、ユスカとエイラの表現する世界に溶けこんでいたのだ。

朝日の訪れと共に、ユスカの舞いとエイラの歌は終わった…

それと同時に二人は急に全身の力を失い、森の民に抱き抱えられながらステージを降りて行った。



「大丈夫…心配しないで。
彼等は今から七日間程眠りに就き、そして元通りに回復しますから…」

「……一週間もですか…!?」

短い日数ではないが、それも無理もない。
夜通し、舞い歌うのだ…
しかも、ただの踊りや歌ではない。
肉体的な疲労だけではなく、精神的な疲労もかなりあるはずだ。
森の民は人間よりもとても繊細な神経をしているのだから、その負担は相当に大きいのだ。
三人にはそのことがなんとなく理解出来た。



「皆様はお疲れになりませんでしたか?」

「ええ、私達は見ていただけですから…」

「…そうですか…
では、参りましょうか…」

「どこへ…」と問う間もなく、ディサは立ち上がり歩き出していた。
あたりにいた森の民達もいつの間にか家に戻り始めており、少し離れた所に数人の後ろ姿が見掛けられるだけだった。



(どこに行くんだろうね?
ネリーのお墓かな?)

(おそらく、そうだろうな。)

(あ…良かった…
持ってきた花、しおれてないよ。)

ディサは振り返りもせず、ずんずんと森の奥へ歩いていく…



「なんだか…とても落ち着く森ですね…
奥へ行けば行くほど、そう感じます。」

「そうだね。なんか、気持ち良すぎて眠ってしまいそうになるよ。」

気持ちの良い場所…お気に入りの場所というものは誰にでもある。

確かにここは本当に気持ちの良い場所だ。
緑色の木々と太陽の光、そして心地好い風のバランスがとても良く…
しかし、それだけではない…
何かが違う…
この包みこまれるような感覚は何なのだろう…?
レヴはたとえ様のない不思議な感覚に、ふと、あたりを見回した。
< 12 / 199 >

この作品をシェア

pagetop