緑と石の物語
男は困ったような顔をしていたが、やがて、何かを決断したかのように口を開いた。



「いくらなら出せるんだ?」

「私はほんのわずかなお金しか持ってません。」

「出せるだけで良いから出してみなよ。」

ジネットは、本当にたいしたお金は持っていなかった。
森を出る時に母が持たせてくれたものと、マリーがそっと持たせてくれたもの。

それらを合わせてもとてもじゃないが宝石が買えるような額ではない。

しかし、男はなかなか納得しない。

ジネットは考え、手持ちの半分の額を差し出した。
ジネットにとっては大金だが、こんな額では馬鹿にしているようなものだから男は怒るかもしれない。
しかし、それで帰ってくれるならそれでも良いと、ジネットは考えたのだった。



「なに?
このルビーに、たったこれっぽっちかよ?」

男は呆れたように人指し指で何度もジネットの差し出した札を叩いている。



「…私にはこれでも大金なんです。
どうか、ご主人の帰りを待つか、他の店をお訪ね下さい。」

「わかった…!」

諦めて帰るのかと思ったが、そうではなかった。
男は、差し出された札を鷲掴みにすると、「じゃ、これはあんたのもんだ。」と小箱をジネットの前に押し出した。



「じゃ、達者でな!」

男は呆然とするジネットを置いて、さっさと店を出ていってしまった。



「あ……」

目の前には、真っ赤なルビーの指輪がキラキラと輝いている。



(…なんで、あんな額で…)

ジネットは指輪を手にとり自分の指にさしてみた。



(……!
ぴったりだわ…!)

ジネットは自分の指で美しく輝く指輪をうっとりとみつめる…

今まで、指輪なんてさしたことがなかった。
持っていたのは、キャストライトの護り石と、サリーがくれた黒蝶貝だけ。
どちらも大切なものだけど、このルビーとは比べ物にはならない。

でも、なぜ、あんな値段で譲ってくれたのだろう…?

ジネットの脳裏にひらめくものがあった。
お金持ちはふだんはガラスの偽物を使い、本当に大切な場に出る時だけ本物を身に付けると聞いたことがあったことを。



(そうか…これはガラスなのね。
だから、あんな値段で…そうだったのね…
ガラスだとしたら、渡しすぎたかしら?
でも、こんなに精巧な細工もしてあるし、第一こんなに綺麗なんだから…)



たとえガラスであっても良い。
そう思えるほど、ジネットはその指輪をとても気にいっていた。

不意に外から話し声が聞こえてきた。
ジネットは指輪をはずし小箱におさめると、素早くポケットにしまいこんだ。
< 128 / 199 >

この作品をシェア

pagetop