緑と石の物語




「お帰りなさい!」

「ジネットさん、店番しててくれたんじゃな。
どうせ誰も来んかったじゃろ?」

「え…?……えぇ…、誰も…」

「ハハハ、いつものことじゃからな。
さて、早速、夕食の支度にとりかかるとしますかの。」

「はい。」

ジネットは咄嗟に嘘をついてしまった。



(……でも、あれは私が個人的に買ったものだから…
報告しなくても大丈夫よね…?)

多少の後ろめたさを感じながらも、ジネットはピエールに指輪のことを言わなかった。



「しかし、遅いのぅ…」

夕飯の支度もすっかり整ったというのにレヴとサリーはなかなか帰って来なかった。



「もしかしたら、向こうで引き留められてるのかもしれませんね。
先にいただきましょうか。」

「そうじゃな、西の塔の…」

「ピエールさん!!」

ヴェールの必死の目配せでピエールは思い出した。
ジネットには、レヴ達は知人の家に行ったということにしていたことを…



「西の…そうじゃ!西向きの戸が最近ガタガタしていてのう…
ヴェールさん、あんた、大工仕事は出来るかい?」

「あ、あぁ、簡単なことなら出来ますから、あとで見てみましょうね。」

「すまんのう、ヴェールさん。」

ジネットは二人のそんな下手な芝居を気にも留めていないようで、黙々と食事をしていた。



「ジネットさん…どうかしましたか?」

「え…?
なにがですか?」

「なんだか…いつもと違うような…」

「いやだわ、ヴェールさん。
私はいつもと同じですよ。」

そういうジネットの顔は微笑みに溢れていた。



「そういえば、なんだかとても楽しそうじゃな。
なにか良いことでも?」

「ま、まさか!ピエールさんまでなにをおっしゃるのです。
良いことなんて何もありませんわ。
私はいつも通りです。」

そういって否定するジネットの顔は、やはりどこかほころんでいる。



「そうですか…?」

「ピエールさん、この野菜のスープ、とてもおいしいですわ。
それぞれの野菜の持ち味がとても良く出ていて…」

微笑みの理由はこのスープのおかげだと言わんばかりに、ジネットはスープを誉めた。



(…いやだわ。
私ったら、そんなに嬉しそうな顔をしてるのかしら?
気を付けなくっちゃ…)



結局、その晩サリーとレヴは戻ってこなかった。
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