緑と石の物語
「森の民は、亡くなると皆この森に埋葬されます。
そして、皆、木となってこの世に再び生まれてくるのです。
ここへ来ればいつでも自分の愛しい人に会える…
以前のように言葉を交わす事は出来ませんが、自分の愛する人達はいつまでもこうやって生きているのです。
森の民の心は、普通の人間よりもずっと弱い…
死が完全なものだったら、私達は生きてはいけなかったでしょう。
遺された者はきっと生きてはいけなかった…
亡くなった者達がこうやって姿を変えて生きていてくれるから、それで私達は命を繋いでいけたのです。
きっとそれは心の弱い私達種族への神からの贈り物でしょう…」



(ディサの言う通りなのかもしれない…
この森に入った時から感じていた不思議な感覚は、亡くなった者達の想いだったのか…
木になってなお、遺された者を気遣い、慈しむその想いだったのだろうか…)

レヴは、胸の奥が温かくなるのを感じた。



「…ディサさん、しかし、なぜここに母の木が…?」

「ヴェール様、この前、ここに来られた時に、おっしゃってましたよね。
オルガ様は暗き森の泉のそばに眠ってらっしゃると…」

「そうでしたね…」

「それをお聞きして、それからすぐにオルガ様をお連れしたのです。
あ、ご心配なく…
もちろん、ほんの一部だけです。
ご主人様と離れるのは、オルガ様もお寂しいと思われると思いましたので…」

「…そうだったんですか。
いつの頃からか母の墓所のそばにこの木が生えてきて、不思議な木だとは思っていたのですが、まさかそれが母だったなんて…」

「オルガ様はご主人にも話されていらっしゃらなかったのですね…」

「母は、父には森の民のことはほとんど話していなかったようです…」

「母上は、普通の人間としてご主人に接したいと思われていたのかもしれないな…」

「……そうかもしれないですね……」



ヴェールは、どこか思いつめたような瞳で、オルガの木をじっとみつめていた。
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