緑と石の物語
ヴェールとジネットはなるべく目立たないようにと広間の隅っこに陣取っていた。



「やぁ、ヴェールさん、ジネットさん!」

「あ、フレデリックさん!こんばんわ!」

「いかがですか?
楽しんで下さってますか?
…いや…しかし…」

「…なんでしょうか?」

フレデリックの視線に、二人は脅えた。
やはり何かおかしい所があったのか…?!と。



「いやぁ、ジネットさん、本当にお美しい…!
その緑色のドレスもとてもよくお似合いだ。
ヴェールさんは、一瞬、レヴと見間違えてしまいましたよ。
まるで兄弟のように似ていらっしゃる…」

「今日の服装はレヴさんのと似ていますから、そう見えたのかもしれませんね。」

「そうかもしれないですね。
では、楽しんで下さいね!」



(フレデリックさんにもレヴさんと義兄弟だということは内緒なんですね?)

(あ…あぁ…そうなんですよ。
よろしくお願いしますね!)

(…わかりました。)

その時だった。
ジネットにダンスの相手を申し込んで来た男性がいたのだ。



「わ…私は…」

「ジネットさん、大丈夫ですよ。」

あせるジネットに後ろからレヴが声をかけた。
ジネットはかなり緊張しながらも男性に手をひかれてホールの中央へ…
ヴェールがその姿を心配そうにみつめる。



「こんな所にいたのか…
やっぱりまだ緊張しているのか?」

「そりゃあ、そうですよ。
私には今まで縁がなかった世界ですから…」

「君は、あの暗い森から出たではないか。」

「え?」

「旅をしてきた世界も森の民の世界も、そしてここも、慣れればなんてことはない。
怖れる事など何もないのだ。」

「レヴさん…」

「私は、今までこういう世界しか知らなかった。
旅をして、違う世界を知ったことはとても良かったと思っている。」

「……そうですね。
レヴさんのおかげでこんな世界のことを知る機会を与えていただいたのですから、こんな所にくすぶっていてはもったいないですよね。」

「そうだ、その意気だ。」
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