緑と石の物語
「レヴ!」

「やぁ、フレデリック。」

「こんな所にいたのか。
探していたんだ。
どうだ?ここらで一曲弾いてくれないか?」

「私は派手な曲は弾けないぞ。
しかも、最近はずいぶんと弾いてないから、きっとうまくは弾けないぞ。」

「そんなことは構わない。
女性達が楽しみにしてるんだ。頼むよ。」

「……わかった。」

ホールに流れていたワルツの演奏が終わると、フレデリックの紹介で、レヴがピアノの前に座った。
途端にその場の女性達が色めきたつ。

レヴの演奏が始まった。
レヴの長くしなやかな指が、切なげなメロディを弾き出す。
ホールは水を打ったように静まり、ピアノの音色だけが流れている。
繊細な旋律を、レヴは少しも間違うことなく情感を込めて引き続ける……
やがて、レヴの演奏は終わり、ホールは拍手と歓声に包まれた。



「レヴって……すごい奴だったんだね…」

「あ!サリーさん!
今までどこに?」

「珍しくあたしに話しかけて来た奴がいてさ。
しゃべってたら、けっこう気があって今まであっちで一緒に飲んでたんだ。」

「あ~あ…レヴの奴、女の子達に囲まれてるよ。」



「レヴ様!とっても素敵でしたわ!」

「レヴ様!最高でしたわ!」

「レヴ、ありがとう!
いつ聴いても君の演奏は素晴らしいな。
なぜ、君が本格的に音楽の道へ進まなかったのか、今でも不思議に思うよ。
あ、そうだ。
こちらは、私の友人のヨハン。
医師仲間なんだ。」

「はじめまして、ヨハンです。
あなたのお噂は兼ねてよりお聞きしてましたが、本当に素晴らしい演奏でした!」

ヨハンはよほど今の演奏に感動したらしく、頬が上気していた。



「はじめまして。レヴです。
お粗末なものをお聞かせしてしまってお恥ずかしい。」

「何をそんなご謙遜を…
妹等は気を失いそうな位、感動してしまって…
あ、リーズ、こちらへ…」

「あ…兄さん…」

リーズと呼ばれる女性は、レヴ達の所へ来るのをどこかためらっているようだったが、やがておずおずと歩み寄ってきた。

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