緑と石の物語




「どうしたんだ、リーズ…
最近、なんだかぼんやりしてることが多いみたいじゃないか。
体調でも悪いのか?」

「え…?
いえ、そんなことはないんです。
身体はいたって健康です。」

「そうか…それなら良いのだが…」

リーズは、あれ以来、自分でもよくわからない不安定な日々を過ごしていた。
兄の言う通り、何をやっていてもついぼーっとしてしまう…
その時、決まって頭に浮かんでくるのは、レヴの姿だった。

皆の前で華麗にピアノを演奏するレヴの後ろ姿…
遠い目をして湖をみつめる横顔…
自分の作った料理を美味しいと言ってくれた時の優しい眼差し…

そして、そんなレヴの姿を思い浮かべていると自分の顔が自然に微笑み、上気しているのを感じる。



(なぜ、こんなにもレヴ様のことが気になるのかしら…?)



リーズはまだ自分の気持ちに気付いていなかった。
自分がレヴに恋をしているということに…

リーズにも今まで好きになった人は何人かいた。
遥か昔の少女時代のことだ。
いつもその人を遠くからみつめるだけ…
それだけで幸せだった…

だが、今度は少しばかり違う。
レヴのことをもっと知りたい!
もっと話がしたい!
もちろん、自分には手が届かない人だということはわかっていた。
レヴの家柄はリーズの家とは比べ物にならない程の名門。
その一人息子であり、女性なら誰もが憧れる容姿と知性を兼ね備えた男性なのだから。
プライベートな一日を一緒に過ごすことが出来ただけで満足すべきなのだ。
しかし、日を追うごとにレヴへの想いは募り、早くなんとかしなくてはもう会えなくなるのではないかという焦りと不安にかられていた。

やはり、諦めるべきなのだ。
良き想い出として、心に留めておくことにすべきなのだと自分に何度も言いきかせるのだが、会いたくてたまらない気持ちをリーズは押さえこむことは出来なかった。
かといって、「もう一度、会いたい」なんて、とてもじゃないけど言えるわけがない。
忘れ物でもあったなら、それを届けるふりをすることも出来たのに、そんなものすらなかった。
偶然を装って、フレデリックの屋敷の近くを歩いてみようかとも考えたが、いざ行動に移そうとするとリーズは足がすくんで歩けなくなってしまうのだった。
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