緑と石の物語
そんな葛藤の日々が何日か続いたある日のことだった。



「リーズ、気分転換に明日ちょっと出掛けないか?」

「……どこへ行かれるのですか?」

リーズはあまり気乗りのしない声で尋ねた。
正直言って、兄とどこかへでかけよう等と思える気分ではなかった。
こちらにはあと数日滞在するとのことだったから、もしかしたら、レヴはもう屋敷へ帰ってしまってるかもしれない。
きっと帰ってしまったことだろう…
自分が行動を起こさなかったばっかりに、もう会えることはなくなってしまったのだ。
どうせ手の届かない人…だから、これで良かったんだ…
そう思う反面、やはりリーズは悲しくて悔しくてたまらなかった。



(私にもっと勇気があったら…)

リーズは深い自己嫌悪に陥り、すっかり暗く沈んでいた。



「湖の方まで行こうかと思っている。
おまえもあの湖は好きだろう?」

兄の言う通り、あの場所はリーズのお気に入りの場所だった。
あの湖のことを想うと、自分の手料理を喜んでくれたレヴのことが思い出され、リーズの胸にはまた切ない気持ちがこみあげた。
今にもこぼれ落ちそうな涙を、リーズはぐっと我慢した。



(駄目だわ…今、あそこに行ったら、私はきっと泣いてしまう…
そしたら、兄さんが変に思うわ。)



「…私はやめておきます。
明日は読んでしまいたい本があるので…」

「そうか…なら仕方がないな。
しかし、たまには外に出た方が良いぞ。
身体を動かさないと精神まで病んでしまうからな。
あ、そうだ。
明日は昼食を持っていきたいんだが作ってもらえるか?」

「ええ、そんなことならお安いご用ですわ。」

「レヴ様がおまえの料理をとてもほめてくれてたそうだぞ。
それで、フレデリックがぜひ食べてみたいというもんでな。」

「えっ!レヴ様が私の料理を…?
明日はフレデリック様とご一緒なのですか?」

「あぁ、フレデリック夫妻とレヴ様とそのご友人達の分だから、たくさんになるがすまないな。」

「レヴ様はまだこちらにいらっしゃるのですか!?」

「あぁ…そうらしい。」



(どうしよう…!?

レヴ様がまだこちらにいらっしゃったなんて…

今さら、「やっぱり私も行きます!」…なんて言ったらおかしいわよね…

行かないなんて言わなけりゃ良かった…

あぁ、どうしたら良いのかしら…)



リーズの頭の中は混乱しきっていた。
もう会えないと思っていたレヴがいた。
レヴに会いたい!
でも、どうせ諦めなくてはならない人…会えばきっとますます辛くなるのはわかっている。
それに、行かないと言ってすぐに行くなんて言えば、兄が自分の気持ちに気が付いてしまうかもしれない…

(私はどうすれば良いの?!)
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