緑と石の物語




「私はやめておくよ。」

「まぁ、なぜですか?
次の日には、もうここを発つんですし、思い出に行きましょうよ!」

「思い出ったって、この前行ったばかりだしさ…
私はここでおいしいワインの思い出作りをしておくよ。」

「では、私も残りますわ。」

「いいよ。私は一人で飲んどくから、ローラは皆と行ってきなよ。」

「私は湖にはいつでも行けますわ。
でも、サリーさんとは今度いつ会えるかわからないのですから…」

「あんた、本当に良い人だね!
レヴ、こんな良い人を逃すなんてもったいないことをしたね!」

「レヴさんには、私なんかよりもっと素敵な方がみつかりますわ。」

「あんたみたいな人、めったにいないよ。
本当にレヴは馬鹿なんだから…」

フレデリック家でのこんな気の置けない夕食もあと少しでおしまいだ。
明日、湖にでかけるのを最後に、その次の日にはレヴの屋敷に帰ることに決まったのだ。
サリーはようやくほっとした気分を取り戻した。
明日は、リーズの兄は同行するらしいが、リーズは行かないという話も、サリーには気分の良い報せだった。



この数日間で、ヴェールは馬に乗れるようになっていた。
すっかり馬の魅力にとりつかれたヴェールは、明日の遠出がとても楽しみで、予定よりもずっと早くに目が覚めてしまった。



「…レヴさん、私も今日はやっぱりやめておこうかと思います。」

「ジネットさん、体調でも良くないのですか?」

「いえ、そうではないのですが、皆さんは馬で行かれるのですし、私のためだけにわざわざ馬車を出してもらうのもなんだか申し訳なくて…」

「そんなこと、気になさらないで下さい。」

「でも……」

その時、屋敷の前に馬に乗ったヨハンと一台の馬車が着いた。



「おはようございます。
今日はお天気で良かったですね。
……少し早すぎたでしょうか?」

「おはよう、ヨハン!
あれ?もしかしてリーズさんも一緒かい?」

「あぁ、今朝になって、昼食を作りすぎたとかで、とても馬には乗せられないからやっぱりついていくと言い出して…」

リーズが馬車から降りて、皆に挨拶をした。



「おはようございます、みなさま。
今日はよろしくお願いします。」

「やぁ、リーズさん、こちらこそお世話になります。」

「リーズさん、先日はどうもありがとうございました。
今日もまた昼食を作っていただいたそうで…ありがとう。」

「レヴ様…」
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